今月の物語


 

 

童話集「心がきらきら25のお話」から



            

  『雨の日のできごと』

雨がいっぱい降る日でした。

お母さんのお使いで、とうふ屋さんへ行った幸代ちゃんは、帰り道、水たまりですべって、ばちゃんとこけてしまいました。

  ビニール袋にはいったとうふは道に投げ出されて、傘が飛んで、スカートがぐっしょりぬれました。立ちあがって泣きそうになっていると、とおりがかったおじさんが、

「けがは、ないか」

と、スカートをしぼってくれました。それから、ハンカチで手や腕をふいて、傘を拾ってくれました。とうふはつぶれてしまったので、もう持って帰れません。

  「あそこで買ったんだな」

  ときくので、うなずくと、とうふ屋さんへ行って買ってくれました。

「こん度は、こけるなよ」

おじさんはそれだけ言うと、走って行ってしまいました。

手や腕をふいて、とうふまで買ってくれたのに、おじさんの怖い顔が気になって、逃げるように家へ帰りました。

「どこのひとだろう。お礼をしたいのにわからないね」

お母さんは、残念がりました。

その夜でした。

晩ごはんがすんで、お父さんがテレビのスィッチを入れたときです。郵便局に強盗がはいったニュースをしていました。犯人の顔写真が出て、幸代ちゃんはびっくり。なんと、親切にしてくれたおじさんではありませんか。

「あっ、おじちゃんだ」

と、大声をあげてしまいました。

「まちがいないか」

「ぜったい、まちがいない」

「よし、すぐ行こう」

お父さんとお母さんと幸代ちゃんは、急いで警察署に行きました。

「犯人に会わせてください」

事件のあとでいそがしくしているおまわりさんに、くわしくわけを話しました。

「だめですね」

刑事さんが出てきて面会をことわりました。

でも、少し考えてから、

「こっちへいらっしゃい」

と、別の部屋へとおされて、手錠をはずされたおじさんに会わせてくれたのです。

おじさんは幸代ちゃんを見ると、おどろきで立ちどまったままです。

「おじちゃん、きょうはありがとう」

幸代ちゃんがぺこりと頭をさげます。

お父さんお母さんも、お礼を言いました。「罪が軽くなるように、お願いします」

お父さんとお母さんが、刑事さんになん度も頼んでいると、うつむいたままのおじさんは、涙をぽろぽろ流していました。

「わかりました」

刑事さんは、そう約束してくれました。


















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