『雨の日のできごと』
雨がいっぱい降る日でした。
お母さんのお使いで、とうふ屋さんへ行った幸代ちゃんは、帰り道、水たまりですべって、ばちゃんとこけてしまいました。
ビニール袋にはいったとうふは道に投げ出されて、傘が飛んで、スカートがぐっしょりぬれました。立ちあがって泣きそうになっていると、とおりがかったおじさんが、
「けがは、ないか」
と、スカートをしぼってくれました。それから、ハンカチで手や腕をふいて、傘を拾ってくれました。とうふはつぶれてしまったので、もう持って帰れません。
「あそこで買ったんだな」
ときくので、うなずくと、とうふ屋さんへ行って買ってくれました。
「こん度は、こけるなよ」
おじさんはそれだけ言うと、走って行ってしまいました。
手や腕をふいて、とうふまで買ってくれたのに、おじさんの怖い顔が気になって、逃げるように家へ帰りました。
「どこのひとだろう。お礼をしたいのにわからないね」
お母さんは、残念がりました。
その夜でした。
晩ごはんがすんで、お父さんがテレビのスィッチを入れたときです。郵便局に強盗がはいったニュースをしていました。犯人の顔写真が出て、幸代ちゃんはびっくり。なんと、親切にしてくれたおじさんではありませんか。
「あっ、おじちゃんだ」
と、大声をあげてしまいました。
「まちがいないか」
「ぜったい、まちがいない」
「よし、すぐ行こう」
お父さんとお母さんと幸代ちゃんは、急いで警察署に行きました。
「犯人に会わせてください」
事件のあとでいそがしくしているおまわりさんに、くわしくわけを話しました。
「だめですね」
刑事さんが出てきて面会をことわりました。
でも、少し考えてから、
「こっちへいらっしゃい」
と、別の部屋へとおされて、手錠をはずされたおじさんに会わせてくれたのです。
おじさんは幸代ちゃんを見ると、おどろきで立ちどまったままです。
「おじちゃん、きょうはありがとう」
幸代ちゃんがぺこりと頭をさげます。
お父さんお母さんも、お礼を言いました。「罪が軽くなるように、お願いします」
お父さんとお母さんが、刑事さんになん度も頼んでいると、うつむいたままのおじさんは、涙をぽろぽろ流していました。
「わかりました」
刑事さんは、そう約束してくれました。
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