『サンタさんのこわれたソリ』
きょうは待ちに待ったクリスマスイブ。
クリスマスツリーには、枝に載せた綿の雪のあいだに、星や月やローソク、小さな赤い靴、お人形なんかがいっぱいあって、赤や青緑の豆電球がちかちかと、光ったり消えたりしています。
「なぞなぞの本、持ってきてくれるかなあ」
智子ちゃんが言いました。
「僕、ロボット」
と、弟の陽介くん。
「わたし、お人形」
妹の由香ちゃんは、去年もらった犬のぬいぐるみを抱いています。
「さあさ、早く寝ないと。サンタさん、こないよ。歯をみがいて、顔を洗ってパジャマに着替えなさい」
お母さんがそう言ったときでした。
トントン トントン
誰かドアを叩く音がしました。
「サンタさんかな」
と、陽介くん。
「そうだ、サンタさんだ」
智子ちゃんと由香ちゃんがいっせいに玄関のほうへ走ろうとしました。
「ちょっと、待った」
お父さんがみんなを止めて、
「サンタさんは、夜中にくるんだぞ。ここにいなさい。誰だろう、いま時分」
と、首をかしげました。
「となりの宮田さんでしょう。きょう、宅配便の荷物、ひとつ預かってるから」
と、お母さんが立ち上がりました。
「はーい」
がちゃがちゃとかぎを外して、ドアを開けたそのときです。
「あっ」
とんでもない大声をあげてしまいました。なんと、サンタクロースのおじいさんが立っているではありませんか。
「あ、あなた、あなたは……」
お母さんはあわててしまって、つぎの言葉が出てきません。
先っちょに白いぼんぼりのついた赤い三角帽子、真っ白なまゆ毛と長いひげ、赤い服とズボンそれに黒い靴をはいた本物のサンタクロースのおじいさんが、にこっと笑って、
「こんばんは」
と、あいさつしました。
「サンタさんだあーっ」
子どもたちは、だだーっと玄関に飛んできました。
お父さんもあわててやってきて、
「まさか」
と、叫んでしまいました。
「あ、あなたが、サンタ、さん、ですか」
「はい、そのとおり。ピンポーンです」
※※
「実は、ですね」
サンタさんは真剣な顔になって、
「困ったことになりました」
と、頭を抱えて、
「ソリが、こわれた」と庭を指さしました
「こわれた?」
「はい。あなたは大工さんとききました。それで直してもらおうと寄ってみたんです」
「そうでしたか。では、見てみましょう。みんな、外は寒いから窓から見てなさい」
お父さんはお母さんと子どもたちにそう言ってから、庭に出ました。
さっきまで降っていた雪はやんでいます。
首に鈴をつけた六頭のトナカイのうしろのソリには、たくさんのプレゼントがはいっているのでしょう、白い大きな袋が乗っていました。
「これですよ、これ」
サンタさんはソリのそばにしゃがみました
2本あるうちの1本のエッジが、真ん中からぽきんと折れてしまっていました。これではすいすいと走れません。
「うーん、ひどいですね」
お父さんは雪を払いのけて、折れたエッジをさわりながら、ため息をつきました。
「空を飛んでるときに、流れ星とぶつかってしまいまして。ひょいとよけたんだが、よけきれんかった。大事な日に、えらいことになってしもうた」
「そうですか」
「どうです、直りますかね」
サンタさんは心配顔です。
「これはかしの木でできています。うちには杉の柱しかありませんが、ま、今夜くらいなら杉でもだいじょうぶと思います。やってみましょう」
「すみません。よろしく頼みます」
「わかりました。直しているあいだ、寒いですから、家の中にいてください」
「いや、それは悪い。なにか手伝わせてもらうよ」
「じゃあ、裏の倉庫へ柱を取りに行きましょう」
お父さんは家に戻ると、みんなにこのことを話しました。それからぶ厚いジャンバーを着るとまた庭に出て行って、裏の倉庫へ行きました。サンタさんもついてきました。
ちらちらと、雪が降り出してきました。
サンタさんは大工道具の箱を持って、庭に出てきました。お父さんは太い杉の柱を肩に載せています。どしんと置いて、電動のこぎりで、
ギーコ ギーコ
と、柱を切ります。そのあとたてに半分切りました。切ったところにかんなをあてて、
シュシューッ シュシューッ
と、削ってエッジを作ってゆきました。
「ほほう、大したもんですな」
見事なかんなさばきをするお父さんのそばに、サンタさんはしゃがみました。
ひたいに汗が出るくらい、長い時間をかけてできあがったエッジは、折れたエッジ以上のできばえでした。
「いや、すばらしい」
サンタさんは道具を片付けながらほめました。
「釘で止めると弱いですから、ここはねじで、それも太めのねじで止めておきましょう。
サンタさんにソリを持ちあげてもらって、折れたエッジを外し、杉の柱でできあがった新しいエッジを取り付けました。
「すみませんが、ドリルを持ってきてもらえませんか、棚の上にありますから」
と、サンタさんに頼みました。
サンタさんはまた倉庫へ行って、すぐに戻ってきました。
お父さんはコードを家から引っ張ってきてドリルにつなぐと、
ウィーン ウィーン
エッジに穴を開けました。
トナカイが少しおどろきました。
子どもたちは、窓ガラスにぴったり顔をくっつけて、心配そうに見ています。
つぎつぎとネジをしめてゆくお父さん。
「はい、できあがり」
すっかり取り付けが終わりました。
「さすがは、大工さん」
サンタさんはがっちりとつけられたエッジをぽんと叩き、それはうれしそうでした。
お母さんが、熱いコーヒーを持ってきてくれました。
「いやあ、助かった。お礼の言いようもありません」
「どういたしまして。それより、早く行かないと、たくさんの子どもたちが待ってるんじゃありませんか」
「おお、そうでした。では」
飲み終わったコーヒーカップをお父さんに渡すと、よいしょとソリに乗り、むちをぴしゃりと鳴らして、すいいっと走り去って行きました。
※※
あと片づけをして戻ってくると、サンタさん喜んでたね、お父さんすごい、とみんなも喜んでいましたが、智子ちゃんが、
「あれ、サンタさん、プレゼントわたしたちにくれるの、忘れてるよ」
と、言いました。
「せっかくぼくの庭まできてたのに」
陽介くんと由香ちゃんはぷりぷり。
「あわててたんで、うっかりしたんだろ」
と、お父さんは子どもたちをなぐさめるのですが、いくらなぐさめても年に一度しかないクリスマスです。それがプレゼントももらえないということになって、おこるのも無理ないと思いました。由香ちゃんはいまにも泣き出しそうです。
「あした、みんなでマーケットへプレゼント、買いに行こう」
お父さんは、そう約束しました。
ところが朝になって、初めに起きた由香ちゃんが、
「ああーっ」
と、大声をあげました。
びっくりして起きた智子ちゃんと陽介くんは、由香ちゃんよりもっと大きな声で、
「やったあーっ」
と、飛びあがりました。
智子ちゃんになぞなぞの本、陽介くんにロボット、由香ちゃんには人形が、枕元に置いてあったからです。壁にはピンで止めたメモにこう書いてありました。
「プレゼントを渡すには順番があって、あわてていて忘れたわけではありません。お父さん、ソリを直してくれてありがとう。お母さん、コーヒーごちそうさん。子どもたち、メリークリスマス!!」
智子ちゃんも陽介くんも由香ちゃんも、
「やっぱりサンタさん、きてくれたね」
と、大喜び。楽しいクリスマスの朝になりました。
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