今月の物語


 

 

童話集「心がきらきら25のお話」から


 

            

  『水仙とおじいちゃん』


「水仙が、咲いたよ。見においで〜」

 毎年春になると、おじいちゃんから、こんな手紙がきます。

今年も春休みになるとすぐ、お母さんと一緒に福居の村に帰りました。

 駅につくと、おじいちゃんが、

 「美穂ちゃん、よくきたね」

 笑顔いっぱいで、むかえてくれました。

 それから手をつないで、

 「なん年生になった?

 「3年生」

 「学校、たのしいかい」

 「たのしいよ」

 「さかあがり、できるかな」

 「できないの」

 そんな話をしながら、おじいちゃんの家に着きました。わらぶきの大きな家で、いろりがあります。かまどもあります。

 あくる日から、おじいちゃんと畑へ行きます。道ばたに咲いている花の名まえを教えてくれたり、レンゲの花でかんむりを作ってわたしの頭にのせたり、草でバッタやトンボを作ってくれたりします。くわで土のおこし方やならし方も見せてくれます。

 寝るまえには『かぐや姫』『かちかち山』『安寿と厨子王』『つるのおんがえし』と、昔話もいっぱいしてくれます。こうして、春休みはみるみるすぎてしまいました。

帰る日の朝になると、こん度もおじいちゃんは、はさみをにぎって、わたしはかごを持ってうら山にのぼります。おみやげに、咲かせている水仙をとりに行くからです。

「近所のひとに、あげなさいよ」

ちょきんちょきんと切りました。

 「わかった」

 「もらったひとは、きれい、いい香り、ありがとう、と言わないかい」

 「言う」

 「ありがとう、と言われると、美穂ちゃんはどんな感じがする」

 「うれしくなる」

 「どこで買ってきたのって、きくだろ」

 「きく」

 「おじいちゃんが作った、とこたえるな」

 「こたえる」

 「もらったひともうれしくなるし、お礼を言ってもらった美穂ちゃんもうれしくなる。きれいに水仙を咲かせたおじいちゃんも、喜んでもらってうれしくなる」

 「うん」

 「ほめてもらった水仙も、いっしょうけんめい咲いてよかったと、うれしいはず。水仙で、みんながうれしくなる」

 花かごがいっぱいになりました。

 おじいちゃんの名まえは、馬吉です。友だちに言うと、めずらしい名まえと笑うけど、みんなが喜ぶ水仙を作っているおじいちゃんは、とてもやさしくてわたしは大好きです。













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